青年劇場通信

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「本物と向き合うこと」

栃木県立日光明峰高等学校校長 丸茂 博


 多くの情報を、テレビやスマートフォンを通していとも簡単に入手できる現代にあって、音楽や演劇もまた、方形に区切られた画面空間を舞台とし、場合によっては掌の中にすっぽりと収まる形で、いつでも、どこでも、いくらでも鑑賞できる対象となっています。そうした日常の営みから離れ、本校では、生徒たちに、その目や耳・肌で、できるかぎり生の芸術を感じてほしいとの思いから、隔年で演劇鑑賞と音楽鑑賞を実施しています。今年度は演劇鑑賞会を開催する巡りとなっていましたが、小規模校である本校は、近年とみに生徒数の減少が進み、保護者の費用負担額も増していることから、こ のような芸術鑑賞会の実施が困難な状態になっていました。そうした実情を抱えていた本校ではありますが、昨年の12月5日に、青年劇場の方々からのお力をお借りすることによって、木校体育館にて『きみはいくさに征ったけれど』を観劇することができました。
 開演を前に足を踏み入れた体育館で目にしたものは別世界。前日からの劇団員の皆様の準備によって、普段見慣れた体育館が、大道具や音響・照明などがセットされた立派な舞台となっていました。会場に入った生徒たちは、いつもと違う空間にたちまち圧倒されるとともに、好奇心に満ちた目の表情からは、開演に対する期待の膨らみが感じ取れました。開演ブザーが鳴り諸注意の放送が流れた時には、その演劇の中に引き込まれていました。
 現代に生き、いじめに苦しみながら『何のために生きているのかわからない』と嘆く宮斗と過去に生きた詩人である竹内浩三が出会い、物語は、伊勢を舞台に、現代と過去が交差しながら進んでいきます。「戦争の悲惨さ」「人と人のつながり」を感じることのできる内容は濃密で、2時間があっという間に過ぎて行きました。
 演劇終了後、機材の搬出をお手伝いした生徒たちは、演者の方に「すごい迫力でした!」「あの場面のあのシーンが好きです」「ほかに有名な詩はありますか?」「このようにセットが作られていたのですね」など、興奮冷めやらぬ表情で感想や質問を投げかけていました。
 演劇を通して、生徒たちは演者の息づかいや声の響き、一つ一つの動きなどを身体で感じ、「生きることの素晴らしさ、尊さ」を心で受け止めたはずです。私にとっても、本物と向き合うことの価値を、改めて強く感じることができた一日でした。



昨年皆さんからお寄せいただいた「青少年劇場公演」応援募金の一部を活用することで、日光明峰高校のように予算確保の困難な小規模校での公演を実現することができました。改めて御礼申し上げます。