日本型小農に愛をこめて

山下惣一(農事考証・原案)



(やましたそういち)

1936年佐賀県唐津市生まれ。
農作業のかたわら、自らの暮らしに根ざした小説や農業問題をテーマにしたルポを数多く発表する。
1969年『海鳴り』で第13回農民文学賞、
1979年『減反神社』で第27回地上文学賞を受賞。
直木賞候補。
山形県川西町の生活者大学校(劇団こまつ座主宰)教頭、農民連合九州・共同代表、アジア農民交流センター代表などを務める行動派農民作家。
主な著書に
『ひこばえの歌』(家の光協会)
『村に吹く風』(新潮社)
『産地直想』『身土不二の探究』(いずれも創森社)
『食べ物はみんな生きていた』(講談社)
『農から見た日本』(清流出版)
など多数。

 1995年のWTO(世界貿易機関)の発足以降、自由化の促進と関税の引下げで農産物価格は軒並み下落し、この20年間で生産者米価は半値になりました。米作りの一日当りの労働報酬は2044円で時給255円、平均の農家の総収入も868万円(1998年)から484万円(2007年)と半減しているのです。ちなみに世帯員数は全世帯の2.65人に対し農家は4.21人です。

 農山村から若者は去り、高齢化は進み、限界集落と耕作放棄地が増えました。農業就業人口が300万人ということは、一億人の日本国民の食糧を3%の人たちが担っているということです。しかも、その7割近くが60歳以上。これが農業、農村の現実です。そこへクルマが売れない時代がやってきた。やがて食糧を買うカネも無くなるかもしれない。さあ、どうするのか。それがいま問われているのでしょうね。

 一方、「農業ブーム」の主力は、産業論よりはむしろ社会のあり方、「生き方」として農業を選択する風潮の側にあるように思われます。「農業」というよりは「農的人生」「百姓暮らし」といったところでしょうか。なにしろ、農業は人と争うことがなく、ウソをつく必要がなく、誰にも命令されない。転勤なし、ノルマなし、給与なし。自由といえばこれほど自由な生き方はありません。

 この場合、ロシアのダーチャ(別荘の意)のようにサラリーマンの週末農業でもよければ「半農半X(エックス)」でもプランターでもいいのです。草食系といわれる若者たちが目指しそうな気がしますね。舞台に登場する結をはじめ里、昌幸、健太郎、元気、舞たちはそのような次の時代を築いていくことでしょう。

 規模拡大路線に未来はありません。これは植民地思想です。世界でも先住民を殺戮、略奪した農業の規模が突出して大きいだけなのです。わが祖国もかつて同じ道に踏み出し、国民は悲惨な目に遇わされました。その歴史を忘れてはなりません。すなわち、小規模農業こそが、反戦、平和、共生の農業なのです。ぜひ、これを支えてください。日本型小農経営に愛をこめて!

(2009年初演パンフレットより抜粋)