第二十四回

「一緒に創り上げる喜びを大切に」


学校法人関西学園 岡山中学校・岡山高等学校  佐藤 素江


 何事も初めて実施する際にはひどく緊張するものだが、今回の演劇鑑賞会については格別であった。

 我が校では創立以来、著名人(河合隼雄氏、養老孟司氏、安藤忠雄氏ら)を招いて文化講演会を行ってきた。生徒の考え方や進路に大きく影響する内容の講演も多く、文化講演会を否定するつもりはない。ただ、十代の多感な生徒たちに生の演劇を見せたいという思いだけが募っていった。

 一方で、演劇の上演については講演会とは比べものにならないほど、入念な打ち合わせが必要であると聞いていた。講師料と上演料の違いも大きな壁となる。わざわざ大変な思いをして実施する必要はあるのか、生徒は本当に喜んでくれるのか、自問自答を繰り返す。そんな時、自分を勇気づけてくれるのが、佐藤可士和氏(デザイナー)の言葉「迷ったときは困難な道を選んで全力を尽くすのがよい」だ。予算や演目についての具体的な提案を持って、思い切って管理職に相談したところ、校長が笑顔でゴーサイン。

 劇団のトラックが通れるようにと、体育館までの道の植え込みを取り壊して拡張し、きれいに舗装もしてくださった。心配だった上演料もPTAからの補助金で賄うことができた。

 当日、古い体育館が見事な舞台に生まれ変わり、「生まれて初めて演劇を観た」という生徒も多く、忘れられない一日となった。

 そのおかげで翌年も演劇鑑賞会を実施する機会に恵まれ、青年劇場「野球部員、舞台に立つ!」が上演される運びとなった。野球のサイレンで芝居が始まると、生徒は一気にその世界に引き込まれた。登場人物や設定が自分たちに近く、おのおのの日常に重ね合わせながら観ることができた。上演は大成功。生徒たちは興奮冷めやらぬ様子で搬出を手伝うために体育館に集まってきた。

 そう、私が求めていたのはこれだった。

 一つの舞台を創るのは、もちろん劇団であるが、観客、会場、ボランティアがいなければ完成には至らない。一緒に創り上げる瞬間、喜びを大切にしたい。

 こうして青年劇場の皆さんのおかげで三年に一度、演劇を観ることができるというローテーションもできた。行事よりも勉強、三次元より二次元という風潮の中で、観劇の喜びを味わえる行事を残せたことを心からうれしく思う。

 さあ、いよいよ今年の秋、三年ぶりの演劇鑑賞会が開催される。演目は青年劇場の「オールライト」。主人公は十七歳の女の子。生徒は男子のほうが多いけれど、彼女と同様に、今やりたいことが見つからなくてもやもやしている生徒が少なくない。日々の生活で心は晴れたり、曇ったり、ぐずついたりと忙しい。舞台には多様な人物が出てくるが、生徒は誰に自分を投影してみるのだろう。どの人の悩みも簡単には解決しない。だからこそ心にちゃんと残るはず。楽しみな舞台の幕が上がる。

(2018年7月)



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