第二十八回

今を生きる子どもたちにとっての視聴覚教室


学校法人新名学園 旭丘高等学校 図書視聴覚部主任  進士 勇介

 1.はじめに
 2020年12月10日、11日の2日間にわたって視聴覚教室として「きみはいくさに征ったけれど」を上演いたしました。当初は7月14日に実施する予定でしたが、新型コロナウイルスによる影響で7月の段階で延期ということになっておりましたが、会館との関係などもあり一時期は中止という可能性もありました。しかし、学校長の「こういった行事を中止にすると私立高校の存在意義はない」という助言をいただき、青年劇場さんと相談して本校の体育館で実施をすることができました。簡単ではありますが、本校の視聴覚教室への想いや、視聴覚教室実施後の生徒の感想などをまとめてみたいと思います。

 2.子どもたちにとっての視聴覚教室の持つ力
 本校では視聴覚教室は年間行事予定にも位置づけられている、大きな行事であります。視聴覚教室は演劇やパーカッションや和太鼓などの音楽パフォーマンスなど多岐にわたる内容で実施しています。
 今回、「きみはいくさに征ったけれど」を選ばせていただいた理由は、本校の生徒と主人公の姿が重なったという点です。本校の生徒はどちらかというと学習が得意ではなく、「私なんて勉強できないし」「何やっても私はなんにも出来ない」という自己肯定感が低い生徒。学校なんていやだなどの想いを持っている生徒。「教師不信」の生徒や、いじめを受けてきた生徒、様々な想いを抱えて入学してくる生徒がいます。こういった本校の生徒と主人公の姿が重なり、この作品を選びました。

 ただ、新型コロナウイルスの関係で予定していた7月に実施ができず、他の行事が縮小・中止になる情勢の中で視聴覚教室についても中止すべきではないかという先生方の声がなかったわけではありません。正直、半数以上の先生方は中止すべきであると考えていたように感じます。けれども、視聴覚教室は中止にしてはいけないと私は考えておりました。それは、視聴覚教室は子どもたちに対して大きな力を持っていると感じているからです。

 今年度の視聴覚教室も実施する前の生徒の様子は「面倒だ」「どうせおもしろくない」というような声が挙がっていました。しかし、公演後の子どもたちの様子は輝いていました。とあるHRの担任から「教室に戻るときの子どもたちがいきいきとしていた」と聞いています。感想を読んでみても「共感する場面がいくつもあった」「自分の人生を振り返る中で、今後どのように生きていけばよいのか考えながら観ていた」「主人公に感情移入してしまって、まるで自分がその役割を演じているようになっていた」など子どもたちが述べています。今回のアンケートでは「おもしろかった」「ふつう」「つまらなかった」という指標も用意しましたが、つまらなかったという生徒は1名もおりませんでした。ふつうと答えていた生徒もアンケート裏面の600字の感想文では最後までしっかりと書かれており、主人公への共感や、明日へ生きる希望が持てたということを書いている生徒がおりました。私の方へ直接感想を述べてくる生徒もおり、実施後の生徒の様子は視聴覚教室が開催できて良かったと私自身も感じることができるものでした。

 3.おわりに代えて〜視聴覚教室は子どもたちへの生き方を拓くもの〜
 「自分自身のこれまでの生き方に重ねて舞台を観ることが出来ました」という生徒の感想から、視聴覚教室は大成功のもとに終わりました。近年、視聴覚教室など学習時間の確保という点から減少傾向にあると聞きます。たしかに、視聴覚教室などの芸術鑑賞教室は「勉強」という面では直接は結びつかないかもしれません。しかし、視聴覚教室を実施することで「将来演劇に携わる仕事をしたい→進学・就職したい→目標を達成するために勉強を頑張る」という生徒もおります。実際、視聴覚教室がきっかけで、進路を決めてその方面の仕事を目指している卒業生がいます。演劇方面に限らず、演劇の内容に影響を受けて、目標を見つける生徒、生き方を見つける生徒、確実に生徒にとってプラスになっています。今回の作品のみで言っても「生きる希望を持つことが出来た」「自分のやるべきことが見つかったような気がした」「人との出会いを大切にしたい」「友人を大切にして、一緒に頑張りたい」など多くの共感の声が寄せられています。芸術に触れることは、決して不要なものではないということを強く発信し続けたいと思います。視聴覚教室で本物の芸術に触れることは、子どもたちの心に残るものであると思います。
 新型コロナウイルス感染症によって日常生活に変化が訪れる状況ですが、こういった中だからこそ、視聴覚教室など芸術・文化に触れる機会を子どもたちから奪ってしまってはいけないと思います。このような状況の中、視聴覚教室を開催する事ができた事本当に良かったと思います。劇団の皆様ありがとうございました。



(2021年2月)



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