第三十一回

自分事として考える平和学習
〜青年劇場「あの夏の絵」鑑賞を通して〜


八幡市立男山第二中学校教諭 中藤佑弥


 「ウクライナで、ロシアからのミサイル攻撃や砲撃があり○名が死亡、住宅や民間施設が倒壊・・・」毎日インターネットやテレビでロシアのウクライナ侵攻が報道され、家族を亡くした人々の悲しみの叫びを聞き、破壊されたウクライナの街の様子を見て、心を痛める日々が続いている。中学生達はどの程度この侵攻について知っているのか聞いてみた。すると、意外にも中学生達はツイッターやインスタグラムなどで毎日情報を手に入れていることに驚かされた。「画像とか動画とかネットにめっちゃあがってんで。あれやばいよな。めっちゃ人死んでるやん。」画像や動画がSNS上にたくさんアップされ、私たち大人よりも生徒たちの方がこの痛ましい出来事について知っていることに驚かされた。しかし、なぜロシアとウクライナの間でこのようなことが起こっているのかは理解しておらず、「戦争ってしたらあかんのに、なんでこんなことするんやろ?日本も戦争するん?」と不思議に思っている生徒がほとんどであった。もちろん、過去に日本が戦争をしていたことや日本でも原爆や空襲によってたくさんの被害が出ていたことも知らなかった。これからの日本、世界を生き抜く生徒たちは画像や動画から表面上は戦争を知っているつもりになっているが、戦争の本質や平和の意義を理解していないことに危機感を抱いた。生徒たちに自分事として戦争や平和について考える機会を作りたかった。

カーテンコールの様子


 そんな中、青年劇場さんの「あの夏の絵」の演劇を鑑賞する機会をいただいた。演劇を鑑賞することを通して、臨場感をもって戦争や平和について考えさせることができる絶好のチャンスである。この絶好のチャンスを最大限に生かすために始まった本校での平和学習。青年劇場さんの「あの夏の絵」の演劇を核としてカリキュラムマネジメントを行い、全教職員が一丸となって総合的な学習の時間や学活、各教科等を通じて平和学習を行った。生徒が自分事として戦争をとらえることができるように、教師主導ではなく、生徒が主体的・対話的に自ら考え行動できる取組を考え実行させた。例えば、総合的な学習の時間には「SDGs 目標:16 平和と公正をすべての人に」について理解を深め、社会科では「日本の戦争の歴史」、音楽では「ヒロシマの有る国で」の鑑賞、道徳教育では戦争と平和についての読み物教材、特別活動部では「平和の笹飾り、短冊づくり」「平和の折り鶴」、学校行事では3年生の修学旅行で広島の原爆ドームの見学や被爆体験者の講和等を行った。しかし、どれだけ画像や映像を通して平和学習を行っても、戦争や原爆の悲惨さや辛さを身近に感じ、自分事と考え受け止めさせるまでには至らなかった。生徒の心を突き動かすまでには至らなかった。もどかしい思いでいっぱいだった。

 そのような中、青年劇場さんの「あの夏の絵」の本番を迎えた。劇が始まると全校生徒が劇に引き込まれ、目を輝かせ見入っていた。画面越しではなく、空間を共有することでしか感じられない臨場感、心の動きがあった。肌で感じ、自分事としてとらえ、心を突き動かされるとはこのことだと思った。机上でたくさんの平和学習をすることは、もちろん戦争の本質や平和の意義について考えさせることにつながってはいたが、演劇を鑑賞することで、生徒がその理解をさらに深め、将来の自分の生き方や考え方までも変えることができた。これからの日本、世界を生き抜く本校の生徒たちが、演劇の鑑賞をきっかけにどのように成長し平和を実現することができるか楽しみである。
 最後に、素晴らしい演劇を鑑賞させていただき、貴重な機会をいただけたことに生徒、教職員一同感謝の気持ちを表したい。

(2022年8月)



「演劇鑑賞教室について考える」のトップページへ
青年劇場のトップページへ