第五回

「舞台の魅力、そして出会いの魅力」


浜宮古島市市議会議員  亀浜 玲子

   「いま、私の願いが叶うならば、翼がほしい・・・」開演の合図から、暗く静かな空間に、客席の背中から澄んだ歌声が天に向かって響いた。 その歌声は、ゆっくりと夜空を包むように観客の心に染み、舞台へと誘った。

 1999年、舞台「翼をください」宮古島公演は、中高校の団体鑑賞が何日かあった後、一般公演も行われたが、親子の姿も目立った。ステージで繰り広げられる教室のシーン。 いじめ、不登校、友人関係、それぞれの抱える悩み・・・。

目の前で展開される場面に、 等身大の学校生活、そして「自分」が重なる。この作品は、子ども達の自分探しや、 過ぎた時間の中で置いてきた自分と再会した大人にも、人の存在の大切さや繋がりの大切さをあらためて考えるきっかけになったのではないかと思う。舞台鑑賞の後、高校生たちは、 団員に熱心に話しかけ、その光景は劇団の滞在している間、続いた。その取り組みで、ひとつの舞台が、感動や共感を呼び、人の心を揺さぶるという演劇の魅力をあらためて考えさせられた。  青年劇場の作品は、これまでに1981年の※「かげの砦」上演以来、※「少年とラクダ」※「真夏の夜の夢」、「翼をください」、 そして、日本の憲法草案を描いた※「真珠の首飾り」などが時宜を得た作品として、宮古島公演で取り組まれてきた。

※「少年とラクダ」
原作=高橋治 脚本・演出=瓜生正美
1983年〜1987年 通算444ステージ
撮影:郡川正次


 特に、「翼をください」での劇団と地元の実行委員会の出会いと交流は印象深い。 船積みの荷物が届かないというアクシデントの中で、芝居に使う机や椅子を駆け回って調達し、大道具は劇団員が地元で製作、何とか初日に間に合った。 そして最後の舞台が終わって、楽屋から出てきた団員を、地元の子ども達が「翼をください」の曲で太鼓の演舞で迎えた。感動の舞台へ、ありがとうの気持ちを込めて。

 学校の団体鑑賞や一般公演で、全国の様々な地域へ劇団の生の舞台が届けられること、演劇鑑賞が出来ることは、とても素敵なことと思う。 もう何年も前になるその時の感動を実行委員会の人たちは忘れていない。演劇の魅力、そして出会いの魅力を思う。

 ひとつの演劇を、同じ空間で、同時に鑑賞し感動を共有する。約2時間、舞台で演じる生身の役者と観客が織りなす一体感のある演劇鑑賞は、感動とともに一人ひとりの心に種を蒔く。 それは机上の勉強だけでは得られない貴重な体験であり、全国の学校で取り入れてほしいと思う。願わくば地方の隅々まですべての学校に。

 宮古島市でも、これまでに色々な作品が上演されてきているが、やはり魅力ある舞台との出会いは良いものである。

 今回、沖縄を題材にした舞台※「修学旅行」の学校団体鑑賞、一般公演が実現する。

 本土の高校生が沖縄の修学旅行で何を感じたか、笑いの中に平和のこと、友達のこと、そして自分のことを一緒に考えたくなる・・・との作品紹介。 かつての戦争で大きな犠牲のあった沖縄・・・。宮古島もまたそうである。

 舞台「修学旅行」、子ども達には、現在進行形で、大人達は時間を遡って。私たちは、舞台からどんなメッセージを受け取るのか。青年劇場の宮古島公演、楽しみである。

(2008年10月)

※執筆者の冒頭の肩書は、当時のままになっています。
現在の肩書が分かる方は、文章末尾に表記しています。




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