第八回

「演劇の灯をともし続けてほしい」


東京都立立川高等学校教諭  藤原 貴樹

   立川高校では、9月に立高祭(文化祭)の一環で演劇コンクールがあり、それへ向けて意識を高めてほしいということで、長年演劇鑑賞教室を実施している。

 本校の演劇コンクールは、校内で実施する「教室演劇」ではなく、外部会場(福生市民会館)で、裏方の仕事も仕込みから大半を生徒の手で 行うという極めて本格的?なものである。夏休み前から準備を始めるので、6月末頃にプロの演劇を見るのは刺激になる。終演後役者さんとの交流会を毎年お願いしているが、 ここで演技をはじめさまざまなヒントを頂けるので大いに参考になるようだ。

 さて※「キュリー×キュリー」である。

 この劇は喜劇というふれこみだが、私にはむしろシリアスな面が多く感じ取れた劇である。 難しい国際情勢の中、ひたすら科学的発見のために心血を注ぎ、研究にうちこみ、 ついにはラジウムを突き止めたキュリー夫妻の姿は、物理化学万能の世紀から、 環境生命にテーマが移行した時代に生きる生徒たちにどう映るか。また、様々な分野で人類の役に立った放射能(線)の負の遺産についてこの劇から彼らはどう考えるか。 最後の場面でピアニストの女(キュリーの娘)とマダムキュリーが対話する(この場面は昨年の初演の方が私にはしっくりきた)が、そこから何を読み取るか。 これらのことを期待して上演をお願いした。青年劇場は※「ケプラーあこがれの星海航路」をお願いして、私が担当になってからは2作品目になる。

 私が上演作品を選ぶポイントは、生徒がこうした演技をやってみたいと思うなど参考にできる要素があること、また、面白いだけではなく彼らの心になにか訴えてくれるものがあること である。具体的にはどういうこと?と聞かれると困ってしまうのだが、ともあれ、選定担当になってから8年ぐらいになるが、5から7作品は実際に見て、そこから選ぶようにしてきた。 毎年、上演中最後列に座って客席を観察するのだが、つまらない作品だと「万燈会」状態になる。 わかりますか?ケータイの画面が開かれてそのちらちらした光があちらこちらに…これがないと生徒は集中してみてくれているのだと、ほっとするわけである。 (ちなみに青年劇場は、どちらも「万燈会」ではなかったので安心を…)

 それにしても最近は、上演作品を選ぶのに苦労するようになった。こちらの寄る年波とほかの仕事の忙しさもあるのだが、 候補作を実際に見る機会がえらく少なくなった。近郊で(出張できる範囲で)の(学校)公演がなかなかなく、 かといって長年やってきたことなので、DVDやパンフで決めるのには抵抗がある。どうして上演が減ったのだろう?劇団数が減ったのか?

※「ケプラーあこがれの星海航路」
作=篠原久美子  演出=高瀬久男
2002年〜2006年  通算155ステージ
撮影:あがた・せい


 私は演劇業界に詳しい訳ではないので、憶測でしか言えないが、どうやら劇団がなかなか立ち行かない状況があるのではないのだろうか。 作品の提案にいらっしゃる劇団が提示する上演料も、数年前からすると「出血大サービス」どころか「血も出ない」のではないかとこちらが心配になる金額である。 このままでは、一部商業演劇だけが生き残り、中小の劇団が、自分たちの納得のいく劇を上演することは絶望的になりそうだ。 昨今は効率第一主義で、何事も「事業仕分け」するのがはやりだが、文化芸術分野にまで土足で入り込む様な現状を苦々しく思っているのは私だけではないだろう。

 話が広がってしまったが、このような厳しい状況の中で、青年劇場もたいへんであろうが、「老舗」として演劇の灯をともし続けてほしいと願っています。


(2010年11月)

※執筆者の冒頭の肩書は、当時のままになっています。
現在の肩書が分かる方は、文章末尾に表記しています。




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