新春座談会
青年劇場2005年の挑戦、
そして、新しい年へ

出席者 葛西和雄/湯本弘美/北直樹/大月ひろ美

司会 大屋寿朗



 昨年、戦後60年という節目の年に、青年劇場は一つ一つの公演を成功させるという基本課題に加えて、劇団の未来を問う三つの新たな課題に挑戦しました。一つ目は次代を切り拓く新しい「青少年劇場作品」創りとその普及。二つ目は劇団初の海外巡回公演である「銃口―教師・北森竜太の青春」(以下「銃口」)韓国公演。そして三つ目は社会的な支援を訴えてさらに劇団の活動を発展させていきたいという「50年への挑戦」応援5000万円募金(以下5000万募金)でした。
 年頭にあたり、昨年の活動を振り返り今年につなげるために、座談会を開催しました。(1/11実施)



新しい青少年劇場作品づくり

○数字は昨年の出演作品(別表)


葛西和雄
CEF
「銃口」公演班では班長を務める。
2003年より運営委員長。


湯本弘美
BCEF
「銃口」公演班では内務担当の副班長として奮闘。


北直樹
@CDF
「ケプラー」公演班では外務担当の副班長を務める。


大月ひろ美
A
2002年入団。
「3150万秒」が東京公演初舞台。

司会 昨年一つ目の挑戦で「3150万秒と、少し」(以下「3150万秒」)を春に初演、秋には学校を巡演しました。

大月 初演の年に旅公演に出発ということは最近はあまりないと聞くんですけれど、すぐに学校公演に出かけ、生徒さん達に観てもらうことで作品が豊かになっていったと思います。生徒さんたちの反応を柔軟に受け止められたなあって。

司会 そのプロセスは楽しかった?

大月 いやあ、しんどかったから楽しかった…かな?。本格的な稽古に入る前に約3ヶ月体力トレーニングや話し合いを持ったので、すごい団結力が強かった。稽古中は本当に辛かったんですけれど本番で吹き飛んだ。お客さんの拍手や感想で全てが良い想い出に変わりました。

  初演を見た時、学校公演にどうなんだろうって思ったのね。「一生懸命さ」が今の高校生にウザいんじゃないか、ひ退いちゃうんじゃないかという気がして。今の高校生はクールでさ冷めていると思っていた。でもこの作品が実際に高校生と出会った時に、初日からすごくいい反応で、自分の考えていた高校生像とか学校の現場とかが違うんだと知らされた。思い返してみると「すみれさんが行く」も初演(1991年)の年に学校公演で回ることが決まっていて、「大丈夫?」と劇団の大方は心配だったのが、これも成功したんだよね。劇団員が「大丈夫か?これ」って思う作品のほうが「これはイケる!」って思った作品より良いのかもしれない。(笑い)逆にそのくらいのものじゃないとダメなのかなって。

大月 私は、子ども達はさ冷めたくて冷めてるんじゃなくて、冷めずにはいられないんだと思う。みんなと違うこと言ったら次の日から口きいてもらえないとか、学校は点数だけで仕分けたり…。感想文に「俳優さん達がものすごくイキイキとしていて芝居後の『やりきった』という顔がすごい羨ましかった」というのがあった。みんな本当は何かに夢中になりたいと思っているんだけれど、その何かが分からないということなのかなって思った。「ウォーターボーイズ」や「スイングガールズ」みたいに何か一つのものに対してだんだん熱血していくっていう映画がちょっと前にヒットしたけど、そうなりたいっていう意識がきっとみんなの中にあるんですね。

司会 もう一つの青少年作品「ケプラーあこがれの星海航路」(以下「ケプラー」)も初めは先生達から「うちの子ども達には難しい」と言われる事が多かったけど最近は「こういう作品を子ども達と観たい」と受け入れられて来ましたよね。

  いい突き放し方する芝居なのかな。子ども扱いしないんですよね。一般、高校生というお客さんの分け方をする必要は全くないと感じさせられています。

大月 「3150万秒」の稽古の時、演出の藤井清美さんに「子どもに見せるとか高校生に分かるだろうか、という考えはやめてください」って言われて、すごい印象に残ってる。高校生は、自分の人生の中で今が一番年齢の高いところにいて、知識量も最大のところに到達しているわけだから「分かるかな?」とか子ども扱いがちょっとでも見えると「馬鹿にしないで」って離れてしまうって。

湯本 「翼をください」の時にも高校生には強烈過ぎるって最初言われたけど、高校生達に支持されてブレイクしたよね。今も昔も同じと言えるのかもね。

司会 高校生達がこの「3150万秒」をどういうふうに観ていると感じますか?

大月 自分達の予想以上のものを受け取ってくれて、逆に戸惑ってしまうくらいです。終演後のロビー座談会で中学生の男の子が手を挙げて「僕は最近、このまま生きてても楽しいことってないんじゃないかって思っていたんですけれども、今日この芝居を観て、これから頑張って生きてれば少しはあるのかなって思えました。」って。すごいショックだったし、受けとめ方の直球さというのを感じた。生徒さんたちの、ズバンと投げたらズバンと受け取ってくれる感性、すごいな!って。

葛西 「銃口」も初めての学校公演を北海道でやったんだけど、「男の子が泣いてんだよ」って、終わってから校長先生が楽屋に駆け込んで来た。あの芝居をそういう風に受け止められるというのはすごい。相手を信頼して届けるということは変わっていないって、改めて感じたんだよね。

2005年のレパートリー

@2月稽古場特別公演
 「気配―『第三帝国の恐怖と悲惨』より
 ベルトルト・ブレヒト=作
 岩淵達治=訳
 板倉哲=演出

A3月第88回公演
<青少年劇場公演>
 「3150万秒と、少し」
 ラルフ・ブラウン=原案
 藤井清美=作・演出

B5月第89回公演
 「ナース・コール」
 高橋正圀=作
 松波喬介=演出

C9月第90回公演
 「谷間の女たち」
 アリエル・ドーフマン=作
 水谷八也=訳
 鵜山仁=演出

D「ケプラーあこがれの星海航路」
 篠原久美子=作
 高瀬久男=演出

E「真珠の首飾り」
 ジェームス三木=作・演出

F「銃口―教師・北森竜太の青春
 三浦綾子=原作
 布勢博一=脚本
 堀口始=演出

司会 ここであらためて去年のレパートリーを振り返ってみましょうか。

 最初は2月の稽古場公演「気配―『第三帝国の恐怖と悲惨』より」。何が良かったって、まず満席だったでしょ。で、「この空間いいよ」って言ってくれるお客さんが圧倒的だった。やってる方はきつかったですよ。四方八方から見られてる怖さ、至近距離にお客さんがいるという快感と恐怖感と両方あってね。どこを向いたってお客さんに自分の背中を向けることになっちゃうんで、相手役にしっかりと向かっていないと怖くてそこにいられない。でもそういう経験はとても得がたいものだった。

湯本 5月の「ナース・コール」は、私が10年来提案してきてやっと実現したんですよね。ある漫画をヒントに看護師モノをと提案したんだけれど、「病院の中の美談にしないで、働くということを中心にして欲しい」と言ってきた。高橋正圀さんがそれを受け止めてくれて、その通りの作品になった。お客さんからも「何で普通のサラリーマンを出さないのか」ってよく言われてたのよ。普通の職場を舞台にした芝居が観たいって。それに「笑って活気がある舞台っていいね」って喜ばれたし、看護師さんだけでなく学校の先生や保育士の方たち、特に女性からの共感の声が多かった。

葛西 9月公演「谷間の女たち」は、前に他劇団がやったのを観たときに「このインパクトをうちのお客さんと共有したい」と思った。高揚した、しかも非常に密度の、質量の濃い空間がそこで創られていて、こういう世界にチャレンジしたいという思いが実現した。演出の鵜山仁さんとの出会いは劇団にとって大きかったですね。

「銃口」韓国公演

司会 9月公演が終わったら息をつく暇もなく韓国に出発。その「銃口」韓国公演が大きく二つ目の挑戦だったんですが、この公演では何ができたんでしょうね。

葛西 日本政府ができないこと。それこそ船津(基)君がカーテンコールで言っていた「橋をかける」こと。

湯本 私らの認識も変わったよね。「何か言われるんじゃないか」とか「怖いんじゃないの、今行くのは」とか、芝居の内容も、きっと私達が思うようには受け止めてくれないだろうと思いながら行ったよね。

葛西 覚悟しながらね。

湯本 でもそうじゃなかったよね。観に来てくれたお客さん達とは、日韓関係が悪い状況だからとか過去の歴史がこうだからとかの「溝」はないなって実感した。笑いの質もタイミングも日本と同じ、いやそれ以上だった。高校生のアンケートも多かったよね。一番印象的だったのは、「日本人はみんな悪い人だと思っていた」っていうのが多くあった。「でも、日本人も人間で、いい人もいるんだ」ってね。

 植民地時代に日本人が韓国の人を拷問してた西大門刑務所の史跡を僕らが見学した日は、地元の小学生も来てた。遠足コースなんだよね。あんなちっちゃい子達がみんな「日本人というのはこんなひどいことをやったんだ」って教えられてるわけよ。そういう教育を受けて育った韓国の若者達が僕らの芝居を観に来てくれて、船津君の挨拶であんなに喜んでくれて、仕事以上のものを貰ったなって感じた。

葛西 まさに「芝居の力で国境を越える」っていうことが実感できたね。日韓関係がよくなるように長年働いてこられた日本人の牧師さんが、「私は20年間頑張ってきた。青年劇場は一日でそれを超える成果を実現した。いやあ、演劇ってすごいですね」っておっしゃってたって。

司会 とはいえ、生身の人間が大所帯で長期間外国にいて。湯本さん、大変だったでしょう。

湯本 一番多いときは45人。生活や移動の情報を伝えることが私の大きな役割だったんだけど、日本語の通じないスタッフもいるし、物理的に大変だった。

 やっぱり言葉が通じないってことがすごいストレスだったね。

湯本 それが一番。言葉が通じないことがどれだけ色々と問題を生んでいくことか、想像できてなかった。例えば救急箱をみんなが使えるようにホテルではどこに置こうかと相談してる時に、誰かがが当たり前のように「フロントに置いてもらえばいいじゃないか」って。その交渉は誰がするの?みんなが取りに行く時はどうするのよ、言葉通じないでしょ!って。小さいことだけど、そういうことなんだよね。一週間くらいなら勢いでいけるかもしれないけど長期間になるとストレスになって、いろんなところでトラブルの元になる。舞台でもそうなのよ。例えばここに電気が欲しいって思ったら、通訳の人を通していっぱい辿らないと実現しない。

 そう、でもきちんと幕を開けたよね。向こうの都合で開演を遅らせたことはあっても、こっちの都合でってことはなかったもんね。

司会 言葉は通じない分、雰囲気や空気は敏感に伝わるっていうこともありましたね。いい意味でも悪い意味でも。

 字幕だって全部を読んでるわけじゃない。舞台の絵面を見て、何とか理解しようとしたんだろうし。だから、ウソをやらない、本気で伝えようと努力したことを、お客さんは受けとめてくれたんだろうなって思う。

湯本 職員室の場面なんかもそうだよね。このやりとりのセリフを文字で読んでも面白くないだろうけど、雰囲気を感じ取ってもらってるんだなってところはあった。

葛西 演技者も、韓国でやっていることの重みとセリフへの理解、このセリフがどう聞こえるのか、ちゃんと伝わるのかどうかって頭をよぎる。そうするとこの言葉にはこれだけの内容があるということを認識しなきゃいけない。日本が植民地時代にどれだけひどいことをしたか、僕等は今まで本で調べたりして芝居をやってきたけれども、侵略した相手の国でやるという責任は重いよね。そのあたりはみんなも感じていた。セリフの重みは格段に変わったと思う。

「50年への挑戦」5000万募金

司会 大きな挑戦をしてきた一年でしたが、これらの活動を広げていくために、劇団を応援してくださっている方々の力を借りようと始めたのが三つ目の挑戦「5000万募金」でした。

葛西 青年劇場は一昨年40周年を迎えたけど、ずっと「外に開かれた劇団」を志向してきた。いろんな分野の人たちと出会ってそこで仕事が拡がる。それは公演回数が増えるということだけじゃなくて社会的な責任が広かってきたんだと思うのね。これを今縮小するのかということが問われた。かつて瓜生(正美、前劇団代表)さんが日本劇団協議会の会長になったり、土方(与平、前劇団製作部長)さんがアシテジの世界理事になったりと、劇団の仕事だけをやってきてはいない。劇団もみんなでその意義を受けとめ支えて来た。その結果、今もいろんなところに僕等は関わっている。また、さっきの中学生の感想なんかを聞くと、若い劇団員たちもみんなやりがいを感じる。同時に芝居を通じてどれだけ若い人達と生きる気力を共有してきているかという証でもある。去年の「真珠の首飾り」や「銃口」の実行委員会公演のように、憲法を守ろう、平和を守ろうという思いを持つ人々とも共同してきた。そんな社会との関わりを縮小しようというのかと。で、やっぱり「撤退する」という選択は青年劇場じゃないってね。ならば、僕等の窮状を率直に伝え、縮小せずにやっていきたいということを訴え劇団の厳しさも伝える中で、支えていただけるよう皆さんにお願いできないだろうかと論議を重ね、募金を始めた。そしたら青年劇場を支えてくださっている方々がいっぱいいるということをそこで改めて実感できたんですね。

 僕もある人から思わぬ大金をいただきました。遠方の方で、しかもこっちからお願いしたわけではなく、劇団のホームページを見て、自分から友達にも呼びかけて送ってくださった。僕の出た芝居は一回しか観たことはない人なんだけど、「私は青年劇場の芝居が好きだし、残っていて欲しいと思うので頑張ってください」というメッセージとともに入金してくださった。他にも「そうだよな、やっぱり青年劇場つぶしちゃまずいもんな」って言ってくださる人もいて。そう考えてくれる人がこんなにいるんだと、自分たちがこれまでやってきたことをあらためて確認することにもなり励まされているんです。

5月公演「尺には尺を」への期待

司会 ここに集まって頂いた皆さんは5月公演の出演者でもあります。まだ役名も発表されていないし、どういうことになるのか分からない中ですけれど、いまの意気込みをお聞かせください。

大月 シェイクスピアって人物名が覚えづらいんですけど、この作品はすんなりと人物把握ができた。人間の持つ根本のコミカルな部分が旨く出ていておもしろいなと。それが高瀬さんと初めての作品になるので、楽しもうと思っています。

 僕は、高瀬さんとは三作目になるんですよね。今回は高瀬さんも楽しみにしてるんじゃないかなって感じがするんですよ。「ケプラー」「GULF―弟の戦争」で劇団のこともよく分かっただろうし。だから、俳優への要求はもっと高くなっていくだろうという緊張感もあります。こういうこともこの劇団はやれるんだという可能性も、お客さんには感じてもらえるんじゃないかな。

湯本 まだ高瀬さんがどこにポイントを置くのかもわからないんで、それが逆に興味でもあります。自分がどこに惹かれていくのかとか…。高瀬さんとは初めてだから楽しみです。

葛西 シェイクスピア作品は17年振りだから、初めての劇団員が多い。「真夏の夜の夢」で旗揚げした先輩たちの気概を上越すつもりで挑戦したい。新しい地平を切り拓く公演にしたいね。

司会 本当に楽しみですね。今日は遅くまでありがとうございました。

(文責・大屋寿朗)

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