修学旅行

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ふじい・ごう
1974年、東京都生まれ。
劇作家・演出家。演劇集団R-vive主宰、現在まで(企画其の九)全ての作品の作・演出を担当する。一方、2001年より演出家 高瀬久男(文学座)の演出助手としても活動。また、近年では俳優養成所講師、ワークショップ講師、文化振興事業、子どもやアマチュア主体の演劇公演、他劇団の演出を任されるなど、その活動の幅を広げている。
修学旅行のテーマ
演出家 藤井ごう

修学旅行とは「児童・生徒らに日常経験しない土地の自然・文化などを見聞学習させるために教職員が引率して行う旅行」(岩波広辞苑)ということらしい。改めてなるほど、と思わせるものだ。しかしきっとこの教職員云々がまず間違いの始まりなのかもしれない。親の心子知らず、教職員の心生徒しらず。心そこにあらずな生徒たち。

都会では自殺する若者が増えている、
今朝来た新聞の片隅に書いていた
だけど、問題は今日の雨、傘がない
テレビではわが国の将来の問題を誰かが
深刻な顔をしてしゃべっている
だけど、問題は今日の雨、傘がない
君に会いに行かなくちゃいけないのに 傘がない

君の事以外は考えられなくなる
それはいい事だろう?

(JASRAC 出0612894-601)

この「修学旅行」を一読して以来、わたしの頭の中にはこの曲が鳴り響いている。もうテーマソングと言っても過言ではない、しかもメジャーでアップテンポときている(じゃあ歌って、と言われたら歌えないのだが…)。「傘がない」ことをとりわけ問題にしているはずなのに、その奥に広がっている世界の方が際立って見えてくるのだ。そして不安になる。だから「それはいい事だろう?」と最後に誰かに問いかけざるを得なくなる。

とある限定された部屋、5人の凸凹グループ。物語はその部屋からとびだしていくことはない。だが、しかし5人はリアルにそこにいるのである。そこにイキイキと存在してしまうのだ、夫々の「問題」を抱えて。そこに5人の人間がいて、人生があって、他者と係わりあって、いつのまにかただのリアルを飛び越えて、今を生きる人の真理にまで到達する。だからこそ、そこから無限に想像をふくらませることができるのだ。今目の前の現象だけではない、そこに生徒らのいるリアルがあるからこそ、そこに立って思いを馳せることができるのだ。大いに笑って、ちょっと立ち止まる。誰かを、自分を介して、その奥に広がる世界が垣間見えてくるかどうか。それは一重に、僕らの想像力に委ねられている。