古川健 氏
【作者メッセージ】
戸坂潤。
唯物論研究会。
恥ずかしながら、どちらもこの作品を書くまでは知らない名前でした。
執筆にあたり調べるにつれ、あの戦争の狂気の迫る時代に、ファシズムの嵐が世界中で吹き荒れた時代に、戸坂潤と唯物論研究会の人々が科学的精神を掲げ抵抗をし続けたことがまるで奇跡のように思えたのでした。
戸坂は日本的イデオロギーの誤謬を鋭く指摘し、錯誤に陥らない「科学的精神」に重きを置いて思索を深めています。
これは彼の数十年先の未来を生きる我々にも切実な問題であるように思います。
この『眞理の勇氣』という物語を、私は戸坂潤と唯物論研究会に対する私自身の驚きと感動と大きな共感をこめて書き上げたつもりです。
いまだ戦争と決別できない我々人類。いかに誤謬に惑わされず、錯誤を捨てて、より良き未来を獲得するか。
戸坂潤の人生には、その問いに対する大きなヒントが隠されているように思われてなりません。
どうぞ『眞理の勇氣―戸坂潤と唯物論研究会』ご期待ください!
(ふるかわたけし)
劇団チョコレートケーキ所属。
代表的な作品に「熱狂」「あの記憶の記録」「治天ノ君」「遺産」「帰還不能点」など。
紀伊國屋演劇賞、読売演劇大賞など受賞。
鵜山仁 氏
【演出家メッセージ】
『眞理の勇氣』の現場
最近にわかに耳にするようになった 『偽旗作戦』という言葉。
これをウィキペディアで見てみると、過去の例としてまず出てくるのが1928年の張作霖爆殺事件、続いて1931年の柳条湖事件。
そしてリストの最後には、2014年のクリミア併合、2022年のウクライナ侵攻とある。
かつての帝国日本による満州侵略と、今回のロシアによるウクライナ侵略、この二つのあまりの相似に改めて驚かされる。
あの時期、戸坂潤をはじめとする日本の「知識人たち」が、「侵略する私たち」と、「それに異をとなえる私たち」の矛盾をどう生きたのか、また生きられなかったのか。
このあたりのジレンマ、実は稽古に入るまで想像もしなかった。
これはとにもかくにも作者、古川健さんが用意してくれた視野には違いないのだが、それにしても…である。
同時代を呼吸することの恐ろしさ、と同時に稽古場で、また舞台の上でそれをフィクションとして、つまりは自分達の問題として追体験する醍醐味と困難を、日々感じないではいられない。
(うやまひとし)
文学座所属。
2007年6月〜2010年8月、新国立劇場第四代演劇芸術監督。
青年劇場では「谷間の女たち」(2005年)以来、2度目の演出となる。