![]() 舞台「博士の愛した数式」に寄せて 小川洋子 初めてお芝居を拝見した時、最も驚いたのは、数字だけにとどまらないテーマの広がりを感じたことです。母と子どもの関係、シングルマザーの孤独、老いの問題などなど、実に現実的なテーマが、ごく自然に、舞台上からあふれ出ていました。これは何より、福山啓子さんの脚本のお力によるものです。 一番うれしかったのはやはり、ルート君との再会でしょう。小説を書いている間はずっと私のそばにいて、励ましてくれた少年。その彼が、すぐ目の前で生き生きと飛び回っていました。私は幾度となく舞台に向かって、ありがとうの言葉を送りました。 他にも、お伝えしたいことはいろいろとあるのですが、舞台を観ていただければすべてが伝わるはずです。観客の皆様のお心に何かしら温かいものが残ることを、祈るばかりです。 (2009年公演パンフレットより抜粋) ![]() ゼロの存在 村上秀樹
連日流れてくるニュースはあまりにも寂しいことが多過ぎて。 |
![]() 「数学って苦手…」。 福山啓子 私は数学が嫌いでした。今でも苦手です。三角関数の頃から授業についていけなくなって、それからはなるべく近寄らないようにして、「私とは関係のない世界」と思っていました。 でも、数の不思議の話を読むのは好きでした。数式を解かなくても、読み物として楽しめるもの。「ゼロの発見」とか、「メビウスの輪」とか、「パスカルの三角形」とか、数学の成り立ちの面白さや数の世界の不思議な魅力は感じていました。数についての絵本も読んだりして、「いろいろ仕掛けを使ったら面白い舞台ができるかも」と考えたこともあります。そんなことを友だちに話したら、その人が紹介してくれたのが出版されて間もない「博士の愛した数式」でした。 一読してすっかりとりこになってしまいました。小川洋子さんの、透明で美しい、ちょっと謎めいた文章。世界の片隅でひっそりと暮らす博士の、数と子どもに捧げる本当に純粋な愛情。出会いが奇跡を起こして、閉ざされた心が次第に開かれていく。別れもあるけれど、それはとても豊かなものを後に残す…。 これは絶対芝居にしよう!と思いました。小川さんに快く劇化の許可をいただき、何度も何度も書き直して、私なりの舞台版「博士の愛した数式」にたどり着きました。原作の美しさを絶対に壊さない。そして、舞台ならではの魅力もたっぷりと。映画のように場面をあちこち移動させることは出来ないけれど、お客さんの想像力の助けを借りて、不思議な美しい数の世界に飛んでいこう―。 今回は演出の村上秀樹さんの力を借りて、さらにキラキラした魅力たっぷりの舞台になりました。数学が苦手な人にも、「数ってなんか面白いな」と思ってもらえたら、これほどうれしい事はありません。どうぞ、舞台を楽しんで下さいますように。 |
スタッフ 原作=小川洋子(新潮社刊)脚本=福山啓子 演出=村上秀樹 美術=乘峯雅寛 音楽=熊野大輔 照明=河ア浩 音響効果=石井隆 衣裳=宮岡増枝 演出補=福山啓子 舞台監督=荒宏哉 製作=大屋寿朗
2017年
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