2008年の作品にご期待ください!


 フランス現代劇から幕を開ける2008年のラインナップ。今年も青年劇場は年間を通して多様なスタイルの作品を皆様にお届けします。作品への意気込みと想いを、それぞれ俳優、演出家、作家のお三方に語っていただきました。今年も劇場にておまちしております!



千賀拓夫(俳優)

2月「あるハムレット役者の夢」
極上のフランス現代劇をぜひ!

 私の2008年は、「あるハムレット役者の夢」で幕を開けます。私の役どころは“ハムレット役者”役です。作者のグランベールは、演出の松波や私と同世代、日本では「アトリエ」(演劇集団円が上演)という作品で知られています。幼時期の戦争で強制収容所送りとなった父親への思いが重くのしかかっており、ユニークなコメディ仕立ての作品でありながら、エロチックでグロテスク、不条理な色合いが強く見られます。セリフに「…“すべてを忘れ去る忘却の国”か、“忘れるということがない記憶の国”、そのどちらかを選ばなければならないんです。…」というものがあります。さて、私たちはどちらの国へ向かおうとしているのでしょうか?

 初めての本読みで、稽古場には笑いの渦が巻き起こりました。シェイクスピアの大悲劇「ハムレット」をベースに組み立てられていますが、これをコメディにしなければなりません。そして約2時間出ずっぱりで膨大なセリフの量!そんなわけで、私はお正月返上でセリフを入れるのに専念してました。どうか皆様、ご来場をお待ちしています。



瓜生正美
(劇作家・演出家)

4月「呉将軍の足の爪」
「呉将軍の足の爪」の演出に当って

 「もう演出はしない」と劇団で宣言してから10年近くになります。宣言を直接・間接に聞かれた方々には申しわけないのですが、「これだけは、もう一度」という作品に出会ってしまったのです。それがこの「呉将軍の足の爪」です。昨年の2月、日韓演劇交流センター主催によるドラマリーディングでの事です。アフタートークでは、どういう巡り合わせか、作者の朴祚烈(パクジョヨル)さんと並んで、私が司会を務めました。

 ところで、この戯曲には“舞台化するに当っての劇作家の助言”が書かれています。「もっとも大切なのは童話的な想像力だ。ここではお日様が笑い、木が歩き回り、牛が人を愛する」とあり、「童話的な単純さと誇張」を求めています。その点では、昨年12月のベセト演劇祭での上演も含めて日本での二回の演出は、上演の成功、不成功は別としていずれも「助言」にそったものではなかったと私は思っています。私は忠実に助言に沿った演出をしたい。それが、この作品を生かす「道」だと思います。

 さて、召集と軍隊生活は、主人公の「うすのろ二等兵」の呉将軍にとって、又、将軍を愛するおっ母、恋人のコップン、赤牛のモクセにとっても悲劇です。しかし客観的には、軍隊と戦争の作りだす愚かさは「お笑い」です。私はこの上演を、童話のように楽しく奇想天外で、そして、ちょっぴり辛口の「笑劇(ファルス)」にしたいと思います。笑って頂ければ幸いです。



篠原久美子
(演出家)

9月「藪の中から龍之介」(仮題)
藪の中、つついて出るのは昨日か明日か?

 明けましておめでとうございます。本年が皆様と青年劇場にとって、そして世界にとってもいい年でありますように…頑張りましょう。

 皆様にお目にかかるのは三度目ですね。「ケプラーあこがれの星海航路」「GULF―弟の戦争―」に続いて、今年は芥川龍之介。はじめて日本人を書きます。

 皆さん、芥川龍之介のイメージというと、若くして自殺した小説家。生活よりも物語を書いた文学者。河童の自画像などでしょうか。では、彼のこんな講演、ご存じですか?

 お題は「明日の道徳」。頼んだ方は「今時の若者は道徳がなっとらん」と、古典に造詣の深い流行作家に説教でもしてもらおうと思ったのでしょう。ところがどっこい龍之介、「昨日の江戸・明治は主君のために死ぬ忠義が道徳、大正の今日はエゴとデモクラシーが道徳。「忠義」の次に「民主主義」がきたけれど、次は前の反動だから、明日の道徳はひょいと昨日の忠義に結びつくかもしらん」と言ってのけた。大正十三年にしれっとこんなことを言う奴は、暗い文学者というよりはポーカーフェイスの改革者、河童というより狸じゃないか? そしてこの言葉がそのまま言えそうな現代、私は大先輩の狸ぶりを見習って、明日のために大胆なフィクションを作るべく、彼と彼の作品のユニークな登場人物・生物たちに出ていただこうと、「藪の中」を突っついています。何が出るかは、お楽しみ。(冷や汗はすでに出ています)。