代表 福島明夫
昨年政権交代があって政治的には転換期を迎えたと言われていますが、これからどのような変革を遂げていくのか、具体的な中身ではなかなか展望の見えない日々が続いています。昨年は、現代を切り取る作品が中心でしたが、今年は節目の年として、もう少し時代を俯瞰したところから、転換期としての今を見つめてみたいと思っています。
その第一弾が、2月の創立45周年、土方与志没後50年特別企画公演「先駆けるもの―秋田雨雀 人と作品/三年寝太郎」でした。秋田雨雀、土方与志の両先生が生涯を通じて大切にされた視点、考え方は、決して古いものではなく、現代に生きる私たちにとって、また劇団づくりを前進させる上で、大きな示唆に富んだものであったと思っています。
両先生にとってあの戦争の時代がとても大きな苦難の時期であったように、日本の軍国主義の残した傷跡は深いものがあります。4月の「太陽と月」では、日本の中国侵略の象徴とも言える満州国をジェームス三木さんの書下ろし、演出で描き出します。「五族協和」とか「王道楽土」などの美辞麗句に踊らされながら満州に夢と希望を抱いて渡っていった日本人は百五十万人を越えます。これからの東アジアの平和を考える上で、この歴史、真実を見つめ直すことの意味は大きいと考えています。
9月の「島」は、1957年に劇団民藝が初演した戦後新劇の代表的な作品の一つです。作者の堀田清美さんは、土方与志先生もその指導に力を入れた労働者作家のお一人ですが、敗戦から朝鮮戦争という激動期に揺れる青年群像を様々な作品で描いています。その中でも「島」は、広島で被爆した青年を中心に、「死」を見据えながらも、未来に向かってどう生きていくのかをめぐって葛藤する青年群像を生き生きと描き出しています。この作品を、「修学旅行」の演出を担当して頂いた新進気鋭の演出家、藤井ごう氏とともに舞台化します。オバマ演説以来、核廃絶に向けた運動が高まる中でこの作品を上演できることは、劇団にとってその存在意義を明らかにする大きな機会となるものと考えています。
さらに今年は日韓併合百年にあたりますが、その年に創氏改名を題材とした「族譜」が秋に演劇鑑賞会例会として取り上げられました。また、地域再生に向かう人々を描いた「シャッター通り商店街」が6月から、全国公演中の「博士の愛した数式」が11月から、それぞれ演劇鑑賞会の旅公演に出ます。また、劇団の原点とも言うべき青少年劇場公演として、「修学旅行」が三年目の旅に出、「キュリー×キュリー」が新たなスタートを切ります。
折しも、昨年の事業仕分けで、芸術団体への国による支援、助成についての必要性が問題視され、芸術団体への支援額の大幅縮減という結論が出されました。これに対して、芸術団体、芸術家のみならず、全国から11万件を超える意見が文部科学省に寄せられ、そのほぼすべてが「文化振興は国の責務であり、費用対効果で考えるものではない」といった事業仕分けに反対するものでした。それにも関わらず、来年度予算案では、芸術団体に対する特別支援事業については、三年間で半減させるという方針が出されています。私たちは、劇団が演劇を通じて社会に対して何ができるのか、その表現、公演、そして教育や地域貢献などの全活動が問われているのだと捉えています。今年一年の活動で、観客の皆様とのつながりをさらに深く、広いものにすることで、私たちの存在意義を実証するものにしたいと思っています。
一人一人が孤立しがちな状況にあるだけに、連帯という言葉を社会的な力にまで引き上げるために、演劇を通じて出来ることをさらに掘り下げ、実践する一年でありたいと思っています。ご支援ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。