3月第103回公演「青ひげ先生の聴診器」

 今日の深刻な医療危機を、現場の人々の視点で描きその背景に迫った、第103回公演「青ひげ先生の聴診器」(高橋正圀=作 松波喬介=演出 3月4日〜14日紀伊國屋サザンシアター他)は、3月11日の大地震の後、4ステージが公演中止となりましたが、合計9ステージ約3000名のみなさまにご覧頂き、たいへん好評をいただきました。
 残念ながら今回ご覧頂けなかったみなさまからも、再演を望む温かい励ましを頂き、いずれご覧頂ける機会をと、願っております。
 作品づくりに際して医療現場の実際について快く取材に応じてくださり、ご専門の外科医の立場からご助言を頂いた川崎協同病院の和田先生に感想を頂きました。あわせて、公演会場で寄せられた感想を一部ご紹介いたします。


患者との信頼関係こそ医療の本質     和田 浄史
(川崎協同病院 医師)


左より 葛西和雄 小竹伊津子 藤木久美子

 私どもの病院は命の平等を貫く立場から、差額室料を一切いただかず、地域の方々と力を合わせて差別のない医療を守ってきました。その一方で、マスコミがセンセーショナルに取り上げるのは、神の手と言われるエキスパートの手術や医療過誤ばかりでした。

 ですから、今回のお芝居を拝見して、私はいたるところで涙があふれてきました。自分が日頃から誇りを持って行ってきた医療が真正面から取り上げられ発信されていたことへの驚きや感謝の気持ちが、涙となって表れたのだと思います。

 お芝居では、がん・認知症・緩和ケア・へき地医療・医療訴訟など、今の医療における様々なジレンマがキャストの人生に複雑に組み込まれ、みごとに描かれます。また、多職種がお互いの立場を尊重しながら対等に働く民主的なチーム医療のあり方も、黄門一座という形で鮮やかに示されました。

 しかし、何にもましてすばらしかったのは、「医師と患者との信頼関係」という一貫したテーマが根底に流れていたことです。秋田の病院でリムジンを改造した利用者と主治医との絆。青ひげに一生診てもらいたいお千代さんと、お千代さんより先に死ぬかもしれない青ひげとの絆。そして、患者を救えなかった風間と、その風間に感謝する遺族との絆。これらの絆は、観る者の心をストレートに打ちます。医者が患者の言いなりになるのではなく、患者が医者の言いなりになるのでもない。医療者と患者がお互いを心から信頼し、同じ目標に向かって二人三脚で歩んでゆくことの大切さを、改めて教えていただいた気がします。

 私は、日本中が花里病院だらけになって、このお芝居を演じる意味がなくなってしまうような世の中を夢見ています。しかし現実はそう甘くはありません。一人でも多くの方に「青ひげ先生」を観ていただき、温かい信頼関係こそが医療の本質であることに気づいてほしいと思います。そして、医療者と地域の人々が同じフロアで感動を共有し、お互いの思いを理解してよりよい医療への一歩を一緒に踏み出せたら、医療は変わると思うのです。

アンケートより


手前左より
江原朱美 蒔田祐子 葛西和雄 大山秋

○期待にたがわず観ごたえのある芝居でした。医事考証の山本先生のお力もあってか、医療現場の姿が生き生きと描かれ、何よりも青ひげ先生をはじめとする病院の皆さんの人間味あふれる姿がよく描かれていて、心温まる芝居でした。
(山本春男 70代)

○死を意識した人生でなく、生きることを意識した人生という言葉に納得しました。私も、生きることの喜びを分かち合えるような、人間らしい医療と看護を提供できる医療者になりたいと思います。
(匿名希望)

○アメリカに追随したために今にも崩壊しそうな医療の現状を、日常的なやり取りの中で実にさりげなく物語ってくれました。さらに「エキスパート」ではなく「プロフェッショナル」にと、医者の本道に光を当て、それを患者や社会が支えてゆくところにこそ明日があることを改めて確認させてくれました。
(米森逞輔 60代)


左より 葛西和雄 杉本光弘

○技術や知識以上に、人と人との信頼関係の大切さを改めて感じました。エキスパートでプロフェッショナルになれれば最高ですが、医療も演劇も一人ではできません。皆さんの団結力がまぶしく、良い時間を過ごさせていただきました。
(松田幸子 50代)

○劇中で語られる医療についてのひとつひとつが、いつも夫と話している「どうにかしたい理想・どうにもならない現実」で、共感とともにとても複雑な思いで観ていました。今の世の中を反映し、また青ひげ先生の病状から、重くてちょっと悲しい結末を覚悟していました。しかしあの温かなラスト…本当に救われた感じがしました。
(匿名希望 40代)

撮影:宮内勝


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