スタッフが語るスタジオ公演の魅力

現実と創造のはざまで描くもの
美術 上田彩絢

上田彩絢(うえだあや)
日本大学芸術学部卒業。舞台美術家。NHKエデュケーショナル「おかあさんといっしょイベントステージ」をはじめ、中野サンプラザ、新国立劇場、紀伊國屋ホールなどで舞台美術デザインを手掛ける。青年劇場では「ケプラーあこがれの星海航路」「袖振り合うも」「キュリー×キュリー」。
現在、日本大学芸術学部、埼玉県立芸術総合高等学校、明治大学シェイクスピアプロジェクトにて舞台美術講師、目白短期大学にて「くらしとコミュニケーション」講師。

 舞台表現の手段として、抽象、具象がある。抽象は、創り手が感じたことをイメージしてメッセージを伝える自由な世界である。では、具象はというと、形が備わり存在が感知できる様であり、本質を訴える力強い手段になるものと考えられる。
 「明日、咲くサクラ」は、誰もが明確に映像化できる限定された場所が物語の舞台となっている。現実の持つ力は余りにも圧倒的で、下手な小細工はできない世界なのではないか…。これが、美術・衣裳を着手する際の基本コンセプトとなった。下手な小細工が出来ないから、徹底した具象舞台が理にかなっているのだが、今回は “具象を創ること”にも違和感を感じた。それは、やはり突きつけられている現実の模倣は安易にできないと思ったからだ。
 脚本が伝えたいこと、青年劇場が公演を通して優しく、そして力強く訴えかけるメッセージを、スタジオ全体で体感できることが最良と思う。観ている側にとって、共に何かを感じる一体化した空間となって頂けることを願い、この度、劇団サイドには無理をいいスタジオ「結」でしかできない空間創りに挑戦をさせて頂いた。

照明・河ア浩に聞く

河ア浩(かわさきひろし)

1981年入団。山口県出身。主な作品として「ケプラーあこがれの星海航路」「博士の愛した数式」「修学旅行」「藪の中から龍之介」「鼬」「青ひげ先生の聴診器」などの照明プランを担当。

― スタジオ公演で印象に残っていることは?

初めて照明プランを担当したのが、1996年小劇場企画No.11「死と乙女」でした。初ということもあり、とても気合いが入っていました。自分の仕事にどうしても納得がいかず、舞台稽古を終えて劇団を出た後、ふたたび戻って、朝まで照明機材を仕込み直す、ということを続けたりしていました。

― スタジオ公演ならではの面白さは?

劇場は、初日2日前位からしか入れないので、本番に向けてそこからが勝負、という所があるけど、稽古場(スタジオ公演)は、セットも早い段階から建てられるし、全体を見ながら皆で工夫したり実験することが出来るので、俳優だけでなくスタッフにとっても、じっくり時間をかけて創れる所がいい。そんな中で発見したり気付いたりすることもあるし、それが経験にもなっていくと思います。

― 「明日、咲くサクラ」への意気ごみを一言。

実際に、被災地に行ってきました。見てきた現実と、この作品で何を表現したいのかしばらく悩みました。何度も台本を読み、早くから演出家・美術家、スタッフの間で、それぞれの想いやイメージを話し合う中で、それまで別個のものだった現実と芝居の世界が重なっていきました。 照明のみどころとしては、芝居が1年間を描いている、四季があり、星や月も出るし雪も降る、それをどう表現するか、やりがいがあります。同時に、俳優をどう見せるかが一番大事だと思います。