青年劇場通信

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いよいよ全国巡演スタート!「野球部員、舞台に立つ!」


 第105回公演「野球部員、舞台に立つ!」は3月14日〜18日、紀伊國屋ホールで9ステージ約2900名の皆さんにご来場いただき無事終了する事ができました。今回の作品は高校が舞台という事で、同世代の若い皆さんの姿が多く、特に野球部員が登場するという事もあり、会場には練習を終えたばかりの野球部員の姿も!いつもより少しフレッシュな雰囲気のロビーでした。作品の魅力を文京学院大学の木村先生に、感想を桐朋高校硬式野球部の塚田さんに寄せて頂きました。

『野球部員、舞台に立つ!』が描く
仲間づくりと演劇の教育力
文京学院大学教授 木村浩則

 ストーリーは、「野球部」と「演劇部」、互いに異質な世界を生きる高校生たちが出会い、「演劇公演」という共通の目標に向かって、ぶつかり合いながらも力を合わせて取り組んでいくというものだ。その過程の中で、友情を育み、仲間の励ましを通じて、挫折や劣等感から立ち直っていく生徒たちの姿に思わず涙した。
 とくに、ドラマの後半、生徒たちが、台本の登場人物に自らの思いを重ねて、互いに台詞を読み合うシーンは感動的だ。たんなるコミュニケーション・スキルに還元されることのない「演劇」のもつ教育力、人間形成力にあらためて気付かされた。
 現代の子ども・若者は、まわりの人間関係にとても気を遣い、正面から他人を批判することがないと言われる。たとえば、精神科医の大平健はその背景として若者にとっての「やさしさ」の意味変容をあげる。老人に席を譲らないのも、上司の質問に黙り込んで返事をしないのも、自分の〈やさしさ〉だと言う若者たちを例にあげ、現代の若者たちにとってその意味は、お互いの心の傷をなめ合う〈やさしさ〉からお互いを傷つけない〈やさしさ〉へと大きく変容したというのである。
 70年代の若者たちは、互いの心の悩みを聞き取り、共感し合うことが〈やさしさ〉だと考えた。それに対して現代の若者たちは、むしろ互いの心に踏み込まないこと、干渉しないことが〈やさしさ〉であると考えている。しかしこの〈傷つけないやさしさ〉は、本当の仲間づくりにとってはむしろ障害となってしまう。気遣いに満ちた表面的な人間関係のままでは、人は孤独な存在にとどまるしかないからである。
 その意味で、この作品の主題である「友情」・「信頼」・「仲間の大切さ」は、とりわけ現代の子ども・若者たちにとって切実かつ深刻なテーマであろう。たとえば『ONE PEACE(ワンピース)』という少年漫画が、若者たちの間に絶大な人気を誇るのも、やはり「仲間の大切さ」を一貫したテーマとして掲げているからだと言われている。
 『野球部員、舞台に立つ!』は、そのテーマを、単純明快に、言い換えれば、変化球でなく直球で、私たち観客に訴えかけてくる。その直球は、他者との関係づくりに戸惑いながらも、真の友情を希求する、現代の子どもたち、若者たちの心のミットにしっかりと受けとめられるにちがいない。ぜひ多くの方々に観ていただきたい作品である。


感想

桐朋高等学校2年 野球部捕手 塚田航平

 高校で野球部に所属している者にとってこの舞台は胸を打ち印象に残るものがありました。試合でのエラーや故障、さらには人間関係、家庭の事情…。一筋縄ではいかない揺らぐ毎日の不安定さが役者さんたちの演技を通して伝わってきました。そしてその中にも高校生の僕達だけが立つことのできる晴れ舞台、地区大会、文化祭での公演。そこに照準を合わせ毎日まい進する彼らの姿は指標として、その不安定さすらすばらしいものを創りあげる過程として際立たせているようにも思えました。

撮影:香月可織(V-WAVE)
 なんといっても、題名にもなっている「野球部員、舞台に立つ!」青春の時間の大半を野球に打ち込み、多くのものを憧れにとどめ犠牲にする野球部員が、本来得るはずのないであろう、演劇という経験をつむ。という内容は僕たちに、あるひとつの課題を提示しました。それは劇中にもでてくる「野球の練習だけでは甲子園には行けません」という台詞です。このセンテンスは、僕達の“視野”を広げました。鮮烈にして明確に。劇中の彼らは演劇を通し広い視野を獲得し成長した。同時にその物語を目の当たりにした僕たちも新しい視野、生き方を見つけました。
 今高校野球を通して僕達は日々心技体成長させようとしています。その中でどうしても見えなくなりがちなものもあるでしょう。それらも感じ取るしなやかな感性。きっと広い視野がそれを培うのだと思います。
 今回このような観劇という機会を設けていただき感謝しております。