2017年11月 小劇場企画22

「『事件』という名の事件」

ふじたあさや=作・演出
11月2日〜12日 スタジオ結(YUI)


アフタートーク/ふじたあさや氏(右)
と進行の福島明夫
 戦時下「治安維持法」の名のもとで最大の思想弾圧となった“横浜事件”を描いた「『事件』という名の事件」は、初日から評判が広がり、おかげさまで連日満席で終了することができました。脚本、演出を手がけたふじたあさや氏によるアフタートークも急遽行い、会場のお客様とともに、改めて事件について考えあう機会も得ました。

戸塚 成(ぴあ)


 スタジオの小公演にこそ、劇団の本気はよく見える。この「『事件』という名の事件」には、葛西和雄、藤木久美子、広戸聡、吉村直、大木章といった実力のあるベテラン俳優を揃え、青年劇場の「本気」がうかがえたキャスティングだった。この人たち、本来が柔らかく丸い持ち味の人ばかりなのはご存じの通りである。結果、名もなき市井の人たちが、許しがたい謀略に、力もなく翻弄されていく理不尽を、全編で体感させてくれた。
 ドキュメンタリーは、演劇よりも、映像や文章の方が本来のスタイルなのでは、という意見を持つ方は多いかもしれない。しかし、俳優が、実在の人物を適切な技術で演じた方が、その人物の言動を、客観的な距離を置いて眺めることができる、というメリットはあり得る。この場合、演じる対象に対してフェアでなければいけないという重い宿題を、俳優および脚本・演出家は負うわけであるが。

撮影:V-WAVE
 青年劇場の俳優の演技が、この陰惨な歴史の再現に際してもなお、柔らかく丸く見えたのは、その重い宿題を、全身で受け止めた結果ではなかったか。
 裁判所の文書や新聞を大量に貼り付けたような池田ともゆきの舞台美術は、戦前の狂信的な国家主義思想家を描いた2月のスタジオ結公演「原理日本」のときと、端的に言えば同コンセプトで、「原理日本」と「『事件』という名の事件」のふたつに、明確な連続線を引くビジュアル作りだった。ここにも、劇団とクリエイターたちの意志を感じた。