連載・演劇鑑賞教室を考える

第23回


学校法人溪泉学園 多治見西高等学校
田山地 範幸

演劇には夢がある
魔法をかけてください


「オールライト」 撮影:V−WAVE
 我が校の体育館は山の上にあり、集会や体育は全長158mの坂を上らねばならない。上ると全力で400mを走った時と同じ。その体育館に2014年「野球部員、舞台に立つ!」は来たのだ。坂の入口は狭く、かろうじて軽トラが通れるほどだ。だから、公演班全員が機材一式を軽トラに積み直し運ばねばならない。30往復はしただろうか。私はその光景を見ながら昔見た山田洋次監督の映画「同胞」が心に浮かんだ。
実は私の中学高校時代は、映画、演劇、落語三昧だった。いつも劇や映画の台詞や落語の一節を口ずさんでいた。その頃に見て感じたものはすべて心に刻み込まれている。中高生はそんな時期なのだ。劇団の製作担当福原美佳さんに「同胞」の河野秀子(倍賞千恵子)を重ねたり、体育館の坂を往復する劇団員の姿を見て、統一劇場の劇団員と重ねた。それだけ劇団員も主催者もお互いが真剣であるからこそ、そこには感動があり、そこから得たものは「明日への生きる力、強さ」になる。
 私は芸術鑑賞会で「今生徒に何を見せたいか」という思いを大切にして決めている。「生徒に感じてほしいものは何か、生徒に何を大切にしてほしいか」など脚本家の気分である。生徒会顧問として生徒の活動を毎日見て、いつもそれを考えている。

多感な中学、高校生に
一番感じてほしいものは何か

 私が「野球部員、舞台に立つ!」に決めた時は「生徒同士の絆」であり「人間の絆」だった。文化祭で一つのものをみんなで創り上げていく喜び。その活動の準備や苦労の中で今まで気づかなかった仲間の素晴らしさを知り、今まで以上の絆が生まれていく。生徒にも先生にも活動の神髄「絆」を感じてほしかったのだ。

演劇には人を動かし、
強くする魔法がある

 公演は先生にも生徒にも大好評だった。
 私は魔法にかかったまま、昨年の十月に青年劇場二回目「オールライト」の公演を決めた。「また青年劇場?」私はそんな声に負けない。
 今度は生きる上で大切なものを生徒に感じてもらいたい。どんな人も悩みがあり、葛藤がある。思い通りにならないことに腹を立て、親や友達とけんかをする。しかし、そんな時にも助けてくれるのはけんかした相手や周りの人々。そういう葛藤を一つ一つ乗り越えてこそ人は強くなっていく。いろいろな悩みや葛藤から得たものには誰にも負けない大切なものもあるんだ、そういうことを「オールライト」では感じてほしかった。そして会場は体育館ではなく、会館を押さえた。

だれもが一人じゃあないんだ

 「オールライト」も私の予想以上の大好評、次の日、いつも休んでいる生徒の顔があった。「あの劇、よかったよ。私頑張るよ」の一言。嬉しかった。「会館にして良かったね」という声もあった。〈前回、みんな気の毒だと感じたのだろう〉  最後、青年劇場の公演班に告ぐ。「演劇には夢があるのです。全国に感動の嵐を起こせ!魔法をかけよ!ちちんぷいぷい!」



観劇後の感想から


2017年10月11日
多治見西高校にて カーテンコール
 すごく私の今の心情に似ているな〜と思いました。
今やりたいことが見つからなくなり、とても不安で、気持ち的につらい中での公演でした。そしたらみちるちゃんを演じたおばあさんの「今やりたいことをやればいい、そしたらいつかやりたいことが見つかる」って言われた時、涙が止まりませんでした。 こんなことでウジウジ抱え込んでいてもアカンって、その時思わせてくれました。 それに自分の将来は「これだ」って思い込まず、今やりたいことを1つ1つていねいにこなしていけたらな〜って思います。 これからの自分を見失わず、おいこまず生活していきたいです。
(1年生)