「みすてられた島」

中津留章仁=作・演出

 とある大戦の後。戦後処理の混乱の中で突如本土から切り離すと言い渡された小さな「島」。独立をめぐって島民たちが着手したのは「憲法」の草案づくり―。2014年初演の「みすてられた島」が、昨年、各地演劇鑑賞会(神奈川、四国、北海道、東北)にて全国巡演を開始しました。この国の未来を大きく左右する法案が矢継ぎ早に決められたこの三年を経て台本改訂も行い、防衛や産業、教育やコミュニティのあり方、「個」と「国」の関係性など、私たちが直面している焦眉の課題をより鮮明に描き出しました。各地からいただいた反響を励みに、来年も演劇鑑賞会の巡演、そして東京再演を予定しております。どうぞお楽しみに!

工藤 英明(名古屋演劇鑑賞会 事務局長)

 2017年8月18日 仙台演劇鑑賞会の皆さんと出演者

 軍靴の響きが聞こえ、自由が制限される法律が制定され、社会的格差が広がり、「弱いものがさらに弱いものをたたく」風潮など、日本社会のひずみが拡大しています。しかし、「生活のため」現状を是認せざるを得ない現実があるのも確か。そんな時代を反映し「現代」を描く若い劇作家が次々と作品を発表していて、まさに「演劇は時代を映す鏡である」といえるでしょう。
 いまを描く代表的な若手劇作家、中津留章仁さんが青年劇場に書き下ろすという話を聞いて、これは必ず観に行こうと思い東京公演に行きました。中津留さんの描く世界は、登場人物それぞれの思いがディスカッションで表現されていきます。決して簡単に結論が出るわけではありませんが、いまの社会のおかれている状態を呈示してくれます。私たち観客はそれを受け、それぞれが発見していく広がりを感じさせてくれます。「憲法制定」をしていく島の人々と一緒に考えていくような気持ちになり、国家とは何か、人々が平和に共に生活していくためには何が必要なんだろうと、自分が島の一員になっていくような思いになりました。
 そして初演から三年経ち、改訂された再演を観て、この戯曲のもっている普遍的な部分と「現代」そのものを描いているところが浮かび上がってきました。「みすてられた」一人ひとりの人間たちが、新たな価値観や人とのつながりを再構築することによって、新たな生き方というものは何なのかを私たちに呈示してくれました。
 来年、中部・北陸ブロックの統一例会として皆さんをお迎えします。共にこの作品に取り組む中で、今の状況に絶望することなく、希望とはなにか、共に探していけるような取り組みにしていきたいです。楽しみにしています。